『幸福(Le Bonheur)』(アニエス・ヴァルダ/1964/フランス)
女性監督による女性の視点で撮られる皮肉な「幸福」。夫婦と幼い子ども2人の夢に描いたような森のピクニック。妻を深く愛するよき夫と、同様に夫を深く愛する優しく従順な妻。幼い子どもは2人ともかわいらしく、幸福に満ちた日常。ソフト・フォーカスで映し出す印象派の絵画のようなやわらかい空気感。色彩の多様。所々に挿入される静止画や反復。まるで絵を描いているような感覚の映画。バックにはモーツァルトの明るいクラリネット曲が流れ、説明的なものはなく、すべてを淡々と映す。物語より前面に押し出されたこの映像に感心した。これが映画の醍醐味なんだと思った。ジャン・ルノワール『ピクニック』(1936)のオマージュであり、作品内でテレビに映される映画は同じくルノワールの『草の上の昼食』(1959)。物語映画としてのルノワール好き心もくすぐられる意外な良作品。
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