『女性の勝利』(溝口健二/1946)
- 作者: 古賀重樹
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/11/30
- メディア: 単行本
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田中絹代はやっぱり「楢山節考」や「おかあさん」みたいな役柄が似合うし、見たあともそう思うんだけど、女性の精神的解放を声高に叫ぶ弁護士役というのは最初まったくしっくりこないのにラスト近くの大演説大会ではしっくりこなかったのも忘れてしまうくらい引き込まれてしまいました。
「女性の地位向上」という戦後の時代の流れを汲んだ作品であるけど、田中絹代の言ってることはいまでもフェミニストが言ってることと大差なくて、病気の夫を亡くし年老いた母が取り残され困窮にあえぎ暗澹たる将来を悲観した母親が嬰児を抱きしめて窒息死させてしまう、という事件は現代でもありえる事件。嬰児を殺してしまった母親(三浦光子)が右往左往したり田中絹代の前で号泣したりするあたりの描き方は溝口健二らしいなーと思えます。
裁判中に検事から言い渡される、母性の欠如、母親は常に子どもを命にかえて守らねばならぬという世間の道徳観念、母親縛りの言葉の数々も現代と変わらない。いま自分が幼児たちの母親であるため、田中絹代裁判官の反論は昔から女性がずっと心の中で叫び続けていた代弁であり、溝口健二が女性でも母親でもないのに田中絹代に言わせたこの女性視点の台詞の数々に感心を超えて感動しました。1946年という戦後すぐにこんな力のある(田中絹代という女優を前面に立てて)フェミニズム映画を作ったという事実もすごい。ここまではっきりフェミ全開の映画もなかなかないのでは?