地味な映画と地味な音楽が好き。
マノエル・デ・オリヴェイラ『世界の始まりへの旅』、
ビクトル・エリセ『マルメロの陽光』が好き。
文系家人と11歳と8歳の女の子2人、シャルトリューの男の子とひっそり暮らし中。


『おかあさん』(成瀬巳喜男/1952)



戦争のため貧しくなった家族の単なる明るい再生物語としないところが成瀬巳喜男の奥深さ。がんばればがんばるほど幸福が逃げてゆく、家族がひとりひとり消えていくという、書くと恐ろしいほど重たく暗い物語。けれど家族の死についてはごくあっさり描き、長女香川京子と次女久子の明るさと、しっかり者の田中絹代おかあさんの前向きさで乗り切っていきます。ただ絹代おかあさんはどこか寂しそう。ハッピーエンドにもならず、かといって不幸のどん底で終わるわけでもなく、物語は誰にも寄り添わないという、ドラマチックな演出を排除して浮かび上がる登場人物たちの心理描写がほんとうに上手。楽しいシーンも散りばめられており、パン屋の信二郎がふたりでピクニックだと思ってはりきって作ったその名もピカソパンはクリーム、蜜、あん、ソーセージ、カレーが次々に出てくる楽しいパン!泣けるシーンはさらにあり、次女久子がおかあさんの似顔絵を壁に張ってるんだけど、その似顔絵を絹代おかあさんが見つめるところ、久子が養女としてもらわれていく前日にみなで向ヶ丘遊園地に行き、最後にみんなでごはんを食べてるときに「おかあちゃん、楽しかったね」という久子の言葉、その久子がもらわれていく日に「忘れものをした」と言っておかあさんの似顔絵を取りに帰るところ。家族を守ために何があっても取り乱したりしない絹代おかあさんの態度にまた泣ける。メロドラマ的じゃない成瀬巳喜男の作品もまたすばらしいなー。


余談だけど、旦那さんが亡くなって仕事のために子どもの面倒が見られない叔母さんのために、貧しいながらも叔母さんの子どもを預かる(長期間だと思われる)というのは当時はごく自然な助けあいだったんだなーと思いました。