ジョイス・マンスール『充ち足りた死者』
家人の本棚より。金井美恵子と矢川澄子のコメントが載った用紙付の本で、興味を持つ。
- 作者: ジョイス・マンスール,巌谷国士
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1985/02
- メディア: 単行本
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久しぶりにクラクラするような小説。私こういう小説だいすきだよ、と思わず自分に教えてあげたくなるくらい。たとえばボリス・ヴィアンのような"(匂いでなく)臭い"がむんむんあって、精神上ぎりぎりのラインで書いているような文章にあっという間に夢中に。
そもそものはじめ、神様が地中の洞に住み、その双子の兄弟が空に眠っていたころのこと、宇宙はかたちも定まらず虚ろなままで、ただ人類の残存者数人だけが、創造の思考にかきみだされた深みの底の、海を見はるかす「北アフリカ人」ホテルのなかで生きていた
という冒頭の一文から目の前に星が散らばるくらい濃厚。本能の在り方、攻撃性、生と死の間に横たわるエロティシズム(とカニバリズム)。ぱっと見分かりづらく、でも深く入り込んでしまう文章にどきどきする。
忙しいわりにぼんやりした日常にパンチのある小説。