杉浦日向子『うつくしく、やさしく、おろかなり-私の惚れた「江戸」』
うつくしく、やさしく、おろかなり [ 杉浦日向子 ] |
江戸戯作の嚆矢と目される平賀源内は、人の一生を、「寐れば起(おき)、おきれば寐、喰ふて糞(はこ)して快美(きをやり)て、死ぬるまでが活きる命」(『痿陰隠逸伝(なえまらいんいつでん)』)と、情け容赦、アラレもなく、バッサリ一刀の下に、斬り捨てています。
眠れば夢に遊び、醒めては世知辛い現実に嘆息を繰り返し、にこにこ食べてはしかめ面で排便し、たまの夜には一瞬のはかない極楽を味わい、そんなこんなで、ふと死ぬる日まで、お目出度くも生きているよ。
これが、泰平の逸民を自負する、「江戸人」の眼差しです。
子どもの読む学習まんがの偉人伝は、寝る間を惜しんで勉学に励み、社会に貢献した立派な人が多いけど、続けて読んでるとちょっとしんどい。子どもの頃はそれでいいけど、いい大人になると、平賀源内のこんな人生観はなんと突き抜けた明るさで、うっとりくらくらしてしまいます。